ヒーローとはなんだろう。
 自分は、昔からモニタの向こうにいる歪な「正義の味方」に疑問を抱いてきた。
 ヒーローとは、なんなんだ?
 あまりにも、人間離れした彼らの行動に、自分は疑問を抱いてきた。
 人のために闘い、自分を厭わない。
 人間は、自分勝手なものだと、幼いながらに理解していた。
 だから、彼らがどれだけ歪かも分かった。
 ……彼らは、一体、なんなんだ?
   自分は……彼らと同じ力を持ってしまった自分は、どうすればいい。
正義ってなんだ?自分は何のために戦えばいい?
目の前に立つ明らかな殺気を自分に向けるそいつは答えてはくれない。
   ゆっくりと、自分は武器を構える。
   考えている場合じゃない。今はこいつを倒すことだけ考えろ。
 
〜数日前〜
 ひなびた集合住宅の一室、俺の部屋。なんの変哲もないただのフリーターの俺が向き合っているそれは、機械的な光沢を放っている。
 腰に巻くのにちょうどよく、俺のウエストにぴったりフィットするそれはまさしくベルトである。
「変身ベルト?……まさかな?」
 ゴミ捨て場に落ちていたのを拾ってきただけだ。それもちょっとした好奇心で持って帰ってきただけ。一通り遊んで悦ったら捨てようと思っているものだ。……不燃物は明日だよな。
 とりあえず装着したので叫んでみた。
「返信!!」
 ……ちょっとアクセントが変だったな……。そんなことまあどうでも……?
「オンセイニンシキ、『返信!!』ヲトランスフォームコードニンテイシマシタ。」
 急にベルトから機械音声が流れて焦った。トランスフォーム?まさか。
 もう一度先ほどと同じような声量、アクセントで叫んでみた。
「返信!!」
ベルトは眩しい光を放つ、俺は思わず両腕で顔を隠した。
 数秒ののち自分の体の変異に驚いた。腕をはじめ、全身を光沢がある銀色のスーツが覆い、顔はフルフェイスヘルメットのようなもので頭全体覆われていた。
「こ、これは……?」
 洗面所へ行き鏡を見て確認する。
 そこには子供のころあこがれたヒーローのような格好をした俺が立っていた。
「なんだよこれ!まるで正義のヒーローじゃないか!!」
 いわずもがな、俺は嬉しかった。子供のころ誰だってヒーローには憧れを抱いたはずだ。俺も例外じゃない。
しかしながらも俺はヒーローに疑問を抱いていた。
なぜ彼らは狂信者のごとく戦うのか?戦いのその先に何を見ていたのか?それを知りたかった。
そのヒーローになることができた今は、もう敵がどこにいるのかとうずうずしていた。不謹慎かもしれないが、早くこのヒーローとしての力を試してみたかった。
そんなとき窓の外から叫び声が聞こえた。
「きゃあああああ!!」
 見ると、女性が謎の黒タイツを着た男(だよな?)たちに襲われていた(もちろん性的な意味はない)。
「まってろ!今助けてやる!!!」
 俺はドアをあけ、階段を駆け降りた。途中隣の部屋に住む老夫婦とすれ違った。二人はかなり驚いた表情になったが、構っているばあいじゃない。女性の命(大げさか?)がかかっているのだから。
 下に降りた俺は黒タイツの変人に(それを言ったら俺もコスプレイヤーにしか見えないかもしれん)にドロップキックをかました。
 恐ろしく体が軽く、普段の俺ではありえないような鋭さでキックが放てた。
「ひゅぎぃぃぃ!!」
 黒タイツは変な叫び声を残しながら吹き飛んだ。そして俺は華麗に着地。
「お嬢さん!お逃げなさい!!」
 明らかにお肌の曲がり角を迎えた顔をしているが、ここでなんて言っていいのかセリフを選んでいる暇は無く、お昼のワイドショーで聞いたセリフをそのまま使った。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!!」
 女性は逃げるどころか、その場にうずくまってしまった。なぜだ?
 そうか、はたから見れば変質者が一人増えただけだもんな。……正義の味方ってのはこういうのと常に戦っていたのか?とすると、最終的な障害は「世間」と言うことになるのかもしれない。
 ……ともかく、この黒タイツたちをどうしようか?向こうは明らかな殺意、もしくは敵意を抱いてこちらに向かってきている。このままでは何をされるか分かったものじゃない。
 向こうは三人、だが確実に倒せる気がする。向こうはどう見ても下級戦闘員といった感じだ。巨大化するような幹部タイプは見当たらない。
 とりあえず俺は腰にぶら下がっている棒を装備した。名前は……ナイススティックにしよう。
 ナイススティックは装備した瞬間桃色に輝き始めた。趣味の悪い色だ、夜中につけるのはやめておこう。
 ナイススティックで戦闘員に殴りかかる。相手は緩慢な動きしかしない、クリーンヒット!!!!
 とたんに弾けるような音、戦闘員はその場に倒れ、さらさらと音を立てて崩れていった。
 やはりと言うかなんと言うか、人間じゃなかったのか。
 俺はナイススティックをふるい、戦闘員を撃破した。あまりにもあっけなさ過ぎて少々腰砕けだった。
「ふぅ。」
 俺はベルトを外した。と、同時に変身が解かれたらしく俺はいつもの格好に戻っていた。
「それにしてもこのベルトは一体?」
 その時、うずくまっていた女性が顔を上げて俺に話しかけてきた。
「さっきここで変な黒い連中と銀色の変人に襲われたんです!!け、警察を呼んでくださいぃ!!!」
 女性に両肩をつかまれて激しく揺さぶられる。
「わ、わかりましたから、はなして、ください!」
 
 俺はそのあと警察の事情聴取を受けたが、もちろん何の証拠も見つからず、解放された。
 翌日のニュースや新聞でもこの事件は扱われることがなかった。どうやらただの妄言とされてしまったのだろう。少々残念な気がするが、まぁ、これでいいのかもしれない。
 俺はこのときの考えを改めざるを得ない事実に巻き込まれていった。このときベルトを捨てればよかったのかもしれない。
 俺は、ヒーローのカルマに捕らわれてしまっていることに気づいていなかった。
 
 と、まぁここまで書いて疲れました。続くようですが、続き全く考えていません。
「書け」っていう人が一人でもいたら書きますけど。
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