星空と銃声
 
 見た限り、俺の右腕には何にも変化がない。どこにも異常はないし、痛みや傷すらない。
「なに見てんの?」
「ん〜…ほんとに俺の右腕ってやばいの?」
「やばいどころの話じゃないよ。やばいもやばい、劇やばだよ。」
 こいつはすぐ誇張表現したがる癖がある。超とか劇とかめっちゃとかすぐにつけたがる。
「ともかくあんたは私の後ろに隠れてればいいの。」
 お姉さんぶりやがって…年は俺のが上だろ。
「けっ。俺だって銃ぐらい撃てんのに。」
 一発頭をはたかれた。…いてぇな。
「それがやばいって言ってんの!!……あぁもう敵まで出てきちゃったじゃない!!」
 犬のようなオオカミのような生物が現れた…どちらでも大差ない。普通に出くわしたらただの犬であるが、一つ違うことがある。…こいつらも犠牲者である。
「ほら!!あんたは隠れてて!!」
 敵は五体。銃を取り出し、五回トリガーを引いた。次の瞬間には場に沈黙が戻っていた。
「雑魚でよかった。ほら急いで行くよ?」
「命令すんなよ。」
 目的地へ向けて俺たちは走り出した。
 
 ある日突然世界が変わっちまった。…わかりやすく言えばそうなる。
 いつもと同じ時間に俺は起きて、いつもと同じ時間に俺は朝飯を食って、いつもと同じ時間に家を出た。ただ一つ違っていたのは、学校へと向かう道には死体が転がっていたってことだ。それも一つや二つじゃない…大勢転がっていた。
「う、わぁぁぁ!!」
 死体が転がっていたのもびっくりだったが、俺が驚いたのはそれだけではない。人が死体を食っていたのだ。それも御馳走を食べるかのように旨そうな顔して。
 俺の声に気付いた人々が俺に寄ってくる。口ぐちに何やらぶつぶつ言っているが聞き取れない。
 寄ってきた人の一人がナイフで切りかかってきた。咄嗟にかわしたが、右腕を少々切られた。制服の袖が切れ、血が出た。…いてぇ。
 その血を見た人々はさらに興奮して、それぞれの手に持った武器を振り回してきた。俺は命の危険を感じた。
「危ない!!」
 銃声がした。そのあと周りの人々は倒れた。痙攣していたが死んではいないようだった。
「あんた!ぼぉっとしてないでこっち来て!!」
 女の声。聞き覚えのない声だった。
「だ、誰!?」
「いいから!」
走り寄ってきた女は俺の右手をとるとその場から俺を連れ出した。
それが出会いだった。
 
 何が起きたかその女から聞かされた。
 世界的に突然の流星群。流星群があるなんてどの天文台、研究機関でも予測だにしなかったことだった。マスコミはこぞってこの世界的ニュースを取り上げた。そして、悲劇は起きた。…いや、喜劇か?
 翌朝、その流星群をどんな方法であれ情報として脳内に取り入れた生物は、自分以外を殺したくなる衝動と食いたいという衝動に駆られるようになった。理性をもつ人間でさえその衝動は抑えきれないものである、理性を持たない生命はさらにそれが顕著に表れた。個人差はあるものの例外はなかった。俺が流星群の出来ごとに気付かなかったのは風邪で寝込んでいたからである。
 それは、ウイルスなどというものではない。情報は情報として伝えられ感染を広めていった。人々が呟いていたのは流星群の情報だった。
 なぜ俺や彼女が助かったのか?ただ見ていない、触れていないというだけではなかった。俺と彼女、助かった人物には共通点があった。
 年齢が6の倍数というものが共通していたのだ。
 俺は冷や汗をながした。俺は流星群の夜に19の誕生日を向かえていた。
 その事実を俺は真っ先に機関…生き残った人々の組織だ…に報告。精密検査を行った結果、右腕だけに流星群の影響が出ていることが判明した。
 俺の意思で制御は不可能。だが、普通の状態では何の影響もないと言われた。ただし、武器を持たせた瞬間に俺は発症…病気ではないがそのように呼んだほうが都合がいいらしい…して、周りの動くものすべてを殺すまで右腕は止まらないらしい。
 
 流星群の夜から丁度3か月。この事態を打破する策が編み出された。
 情報には情報を…ってことらしい。俺のような半感染者…要は事件当日に誕生日をむかえていたものたち…の情報を大気圏外の衛星から地表に向け照射するというものだった。
 その際、武器をもつと発症するという情報を消去して照射すれば生物は実質元に戻るということだ。…俺は一生半感染者だがな。
 
「なぁ。お前嫌にならないか?人を撃つの。」
「嫌だよ?でも…死にたくないから。」
 衛星にデータを送るべく世界各地のありとあらゆる衛星を使用することになっていた。そのため、俺たちはテレビ局のアンテナを使おうと思った。
「真っ暗だな。」
 夜というのもあるが、人が激減しているせいで発電所も動いていない。だから電気はここ3か月通っていない。
 テレビ局は血の匂いで溢れていた。やはりここにも死体が転がっている。
「どうやってデータなんか送るんだ?俺は何も知らされてないぜ。」
「簡単。私が全部わかってる。あんたはついてくればいいの。」
「はいはい。」
 ドガァン!!!
 急に奥の扉が開き、大勢の人が俺たちを殺そうと向かってくる。やはりぶつぶつ何やら言っている。
「やばいかも…あれだけの量は。」
 銃をぶっ放しながら言う。確かに確実に倒してはいるが、人数が多すぎる。
「おい…!ほんとに大丈夫なのか!?」
「あんたは私が守る。何より私がそうしたいから!!」
 この3ヶ月間、こいつとはいつも一緒にいた。同じ怖さを味わったってのもある、年が近いってのもある。まぁ、なんだかんだ言っても俺たちはお互いが好きなんだろうな。
 俺は床に日本刀が転がってるのを見つけた。…何かの番組で使われたんだろう。
「ちょっとあんた何しようとしてんの!?ダメだってば!!」
 模造刀だが敵を倒すのには十分。殺す必要はない、みんな助けるんだ。
「俺がバーサク状態になったら…動くなよ。全員倒したら俺を撃て。分かったな…?」
 そっと刀を抜く、右腕が熱い。
「わかった…今だけはあんたに守られてあげる。しくじんないでよね。私に手あげたら承知しないから。」
 もう、俺の耳には何も聞こえなかった。見えているのはたくさんの敵。
 数分後、銃声、俺は倒れた。何人倒したかはわからない。飛んでいく意識の中、あいつが泣いているのは分かった。…ばかが、俺が死ぬわけないだろ。…お前はお前の仕事やれよ。
 
 あとで聞いた話だが、作戦はうまくいったらしい。ま、俺にとっちゃあんまり関係ない話だな。
 
「平和だね。」
 夜、機関の施設の屋上。とても星空が奇麗だった。
「なにを…いまさら。」
 伸びをして寝そべった。
「嘘みたいだね。」
「じゃあそれでいいんじゃないか?」
 一発頭をはたかれた。
「ばか。」
「ははは…そろそろ時間みたいだ。」
 立ち上がって服をはたく。
「…うん。」
「泣くなよ?」
 ふと、ひとつだけ星が流れた。
「…よし。」
「願い事か?かわいいとこあるんだな。」
 一発頭をはたかれた。
「ばか。」
「はは…。」
 俺はそいつと一緒に部屋に向かった。
「じゃ…また…な。」
カプセルに入り目を閉じる。あいつがなんか言ってるのは聞こえた。
 残念なのは何言ったのかがわからなかったことだ。
 眠い。
 今は…寝るか。
 
星空と銃声fin
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