たまにではあるが、自分の妹がとても恐ろしくなる。
 あれは俺が小学六年、妹が小学四年のときだ。飼っていた犬が死んだ。小さいころから一緒に育った犬はもはや兄弟同然の存在だった。
 俺は涙が止まらなかった。動かなくなった愛犬を抱きかかえて泣きじゃくっていた。しかし、そんな俺を見て妹は笑っていた。声もあげずに。その眼にはとても暗いものが浮かんでいた気がする。それが妹に感じた最初の恐怖だ。
 普段は物静かで俺の後ろについてきてばっかりの妹だが、物事の終局や生物の死といったものを見るととても冷たい笑みを浮かべるのだ。そのたびに俺は鳥肌を立てる。
 トンボの季節に妹が笑いながらトンボを捕まえては解体していたこともあり、それを見た母は止めに入ったが、妹が母に向けた目線には殺意がこもっていた。
 妹は刃物が好きだ。包丁さばきは母よりうまいし、テーブルマナーも完璧だ。刃物辞典とかでも持っているんじゃないかと思うくらいに熟知している。
 そんな部分を除けば普通の女の子で俺にべったりである。家にいる間はまず俺のそばにいる。よくアルバムを持ち出しては俺と思い出に浸ったり、妹の部屋には俺と二人で行った動物園での写真が飾られている。俺もそんな妹が好きだが、妹が俺に抱いている感情はどこか異常なモノを感じる。
 それでも俺たちは、なかのいい兄妹だった。………だった。
 今俺は、血の海に沈む妹を目の前にどうしていいか茫然としている。俺の手にはナイフが握られている。
 何でこうなってしまったか……時間軸は過去へと移行する。
 
 外では雪がちらちらと降っている。俺はこたつでマンガを読んでいる。妹はテレビのお笑い芸人に笑い声を上げている。正直…俺には何が面白いんだかわからない。
 そんなだらけた空間に母が血相を変えて飛び込んできた。
「おじいちゃんが車にはねられたって!!お母さんは病院まで行ってくるからあんたたちは勝手に夕飯食べてて!」
 そう言うと母はどたばたと走って行った。雪はこれから強くなるらしいが…大丈夫だろうか。じいさんは多分大丈夫だろう。クマと素手で戦ったって言うくらいだし。
「今夜は二人だけってことかな?」
 妹がぽつりと俺に話しかけてきた。
「そうみたいだな。静かで助かるぜ。」
 我が家の家族構成は父、母、姉、俺、妹の五人だ。父は出張で一週間は帰らない、姉は友人たちと温泉旅行に行っている。
 幸いにも俺も妹も料理は得意な部類に入る。ちょうど時計は午後の四時を指している。夕飯の用意でもするかな。
 俺が台所に行こうとすると妹もついてきた。
「俺一人でやるからお前はこたつにいていいぞ。」
「うぅん、いいの。」
 妹は長い髪の毛をポニーテールにまとめてエプロンをつけた。
「さて…何があるかな?」
 冷蔵庫の中にはカレーの材料が入っていた。丁度材料もあるし、楽だからこれにしよう。妹に野菜の半分を渡す。俺より早く剥き終わるだろう。包丁を構える妹の表情は嬉々としていたが、俺は寒気を感じる。
「いたっ!」
 ぼけぇっとしていた俺は指をちょっと切ってしまった。傷はあまり深くなかったが血が出てきた。
「お兄ちゃん大丈夫?」
 妹はそう言うと俺の指をくわえた。そのさい妹がちらっと笑ったような気がした。
「ん…あむっ…。」
 俺の指をしきりになめる…ちょっとそれはやりすぎだろ。
「もう大丈夫だから放せ…。」
「あ、ご、ごめんなさい!!」
 妹は顔を赤くして放れた。材料も切り終わったし、あとは煮込むだけだな。
「ちょっとばんそうこう取ってくるから、野菜を煮込んどいてくれ。」
「うん。」
 台所を離れて居間に向かう。救急箱から絆創膏を取り出して傷口に張った。それにしてもさっきの妹の行動は異常だ。嫌な予感がする…
 外はもう真っ暗になっていた。雪はますます激しくなり、母から今日は帰れないと電話がきた。そのことを妹に伝えた時に妹は喜んでいた。……なぜだ。
 カレーができたので二人だけで夕食を開始する。時計は19時をまわっていた。
「ねぇ、お兄ちゃん。」
 妹が質問をしてきた。俺はカレーを食べながら答える。
「なんだ?」
「お兄ちゃんってえっちなことしたことある?」
 吹いた。
「な、なにをいきなり聞くんだ!!」
 冗談かと思ったら、妹は真剣なまなざしでこちらを見ている。
「……ないよ。」
「そう?それなら良かった!私のお兄ちゃんがそんなことするわけないもんね。」
 ……私の?……ますます嫌な予感がする。
「お兄ちゃん。カレーおいしい?」
「ん、まぁな。」
 その言葉を聞いたとき、妹は例の冷たい笑みを一瞬浮かべた。しかし、次の瞬間にはもとの笑顔に戻っていた。
 
 カレーを食べ終わって、しばらく二人でおしゃべりをしたりテレビを見て笑ったりしていたが、時計が23時を指したので各自の部屋にもどった。
そして…二時間後…深夜1時。部屋をノックする音。
「おにいちゃん…。」
 ドアを開けて妹が入ってきた。俺は寝ていたところを起こされて多少不愉快だった。
「なんだ?」
 妹は俺のベッドに近付く…例の笑みを浮かべながら…俺は恐怖を感じた。
「お兄ちゃんは…私のこと好き?」
 妹がベッドに腰掛ける。
「まぁ…好きだよ。」
 妹は首を横に振った。
「違うの…妹としてじゃなくて…女として。」
 妹が俺に抱きつく。俺は半身を起した状態だったためにそのまま押し倒される形になった。
「私ね…お兄ちゃんが大好き、だから…お兄ちゃんに私の初めてをあげる。」
 上から無理やり口づけされた。舌を舌で舐められる。俺は寝起きの状態と暗闇のせいで半分わけがわからなくなっていた。
「お兄ちゃん…今日のカレー…おいしかった?」
 俺の答えを待たずに妹は続ける。
「あれね…お兄ちゃんの血と私の血を入れといたんだ。」
 急に吐き気がしてきた。
「今…お兄ちゃんの中に私がいて、私の中にお兄ちゃんがいるの…だから中だけじゃなくて、本当に一つになろう?」
「何を馬鹿なこと言ってるんだ!そんなことできるわけないだろう?」
 妹の表情が険しくなる。
「お兄ちゃんからしてくれないなら…私からするだけだよ。」
 そう言うと妹はパジャマを脱いで裸になり、俺の顔に自分の性器をあてた…。俺の上にまたがる様な形だ。その体制のまま、妹は俺のズボンを脱がして俺を口に含んだ。
「おにぃふぁんほ、はめへひぃんだよ?」
俺は煩悩に負けた。俺は妹の性器を舐めた。舐めるたびに妹は体をしならせた。
「ん、…きもちぃよ。お兄ちゃん。」
「俺もだ…とても…気持ちがいい…。」
 妹からは液体がとめどなく流れ出し、俺はそれをなめとり続ける。
「もう…いいよ?」
 妹は俺の上からどくと仰向けでベットに寝そべり、足を開いた。
「本当に…いいんだな?」
「うん。」
 俺は妹にゆっくりと自分を挿入した。
「っ!いったぁい!!」
 妹が叫んだ。性器からは血が滲んでいる。
「やめようか?」
 妹は半泣きになりながら、俺の腕をしっかりと握っている。
「うぅん…いいの。痛いけど…気持ちいい…もっと…して?」
 俺はそう言った妹の意をくんで容赦なく動いた。妹はとても温かく、やわらかく俺を包んでいる。もう戻れないないんだったら進むだけだ。
「あっ!はっ!んっ!痛っ!あぁ!」
 妹のあえぎ声、俺の鼻息、ぐちゅぐちゅという音。暗闇に響く音。
「そろそろ…きてる…。」
 言うが早いか…俺は自分を解き放った。妹は俺に蹂躙されきって恍惚の表情を浮かべている。
 俺は妹から自分を引き抜いた。妹からは白濁の汁が溢れる。
「ほんとに…よかったのか?」
 俺は後始末をしながら妹に聞いた。
「……うん。だってもう関係ないもん。」
「なにが?」
「これでお兄ちゃんの子供が産めるから。」
 俺はその言葉に凍りつく。まさか…こいつ…
「そ、二日目。カレーにいれたのもその血。」
 俺の意識は停止する。
「それにこのことを知っているのはお兄ちゃんと私。言えないよね…誰にも。」
 そういうと妹は何かを取り出した。それを察知した俺は飛びのいた。
「お兄ちゃんを殺して家を出るの。それでお兄ちゃんの子供と二人で…ね?」
 妹はナイフを構えている。パジャマのポケットにでも仕込んでおいたのだろうか。結構なナイフで切れ味は良さそうだ。
「こういう形で一緒になれたんだから…それでいいよね?」
 妹はあの笑みのまま俺に突進する。俺は妹の腕をつかみ必死に抵抗する。
「なんで!?お兄ちゃんも一緒になりたがってたじゃない!だから私とこんなことしたんでしょ!?だったら死んでよぉ!!」
 妹は行為の直後だったので服はおろか下着すら着けていない。
「ふざけるな!なんで俺が殺されなきゃいけないんだ!」
 妹は必死に抵抗するも、俺は男だから力では完全に負ける。俺はナイフを奪い取った。
「だって…お兄ちゃんは他の人と結婚して…私から離れていっちゃうでしょ?でも、私がお兄ちゃんの子供を産めばお兄ちゃんと一緒にいられるでしょ?お兄ちゃんが死ねば遠くにもいかないでしょ?」
 あの眼で俺を見つめて…冷たい笑みを浮かべた…こいつは…人なのか?俺は怖くなって手に持っていたナイフを……
 
 時間はここで現在に戻る。妹は全く動かなくなっている。
 俺は手に持っていたナイフで……自分を…。
 
 ある家の二階…その血だまりには二つの死体が浮かんでいた。性交渉をした後だったのだろうか、二体とも全裸で発見された。そして二体ともなぜか笑っていた。
 
fin
 
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