暗い部屋の中、一人の男が呟く。
「これも失敗か……。」
 男の視線の先には大きな檻。中には私。
「結局私はだめな人間だな。私もお前のように不完全なんだな。」
 言葉の意味がわからない。それよりここから出して。
「……おどろいたな、しゃべれるのか。これは何だ?」
 馬鹿にしないでほしいな、メガネだよね。
「ふむ、捨てるには惜しいが私が必要としているのはもっと完全な『人間』だ。」
 そう言うと男は部屋を出て行った。私は一人残された。
 ここから出たい。でも……。
 気の遠くなるような時間が私の横を通り過ぎて行った……。
 
 心霊スポットと言われるような不気味な建築物はどこにでもあるが、その大抵はただの雰囲気だけで実際に霊なんか存在しないもんさ。
「お前って本当に怖いもの知らずだな。」
 俺の持論を隣を歩く友人に言ってやったところそう切り返された。
「俺にだって怖いものはあるさ。」
「何が怖いんだ?」
「……生きている人間ほど怖いものはないぜ。」
 なんと言うか、それを聞いた友人の目には嘲笑が込められている……ような気がした。
「はいはい、いいですよいいですよ、馬鹿にしたければしろ!」
「いやはや、臭いというかなんて言うか……。ま、そんなことより、だ!」
 友人の調子が急に上がる。
「なんだ?」
「肝試ししようぜ。お前怖いもんなんかないだろ!?」
「生きている……。」
「シャウト!で、だ。今夜あのお化け屋敷に入ってみようぜ!」
 お化け屋敷。そう俺たちが呼んでいるのは、郊外の森の中にある築三十年以上は立っていると思われる廃屋のことだ。
 見た目はしっかりしているが、外装は蔦やコケまみれ、辺りには不法投棄された古タイヤや家電が無造作に放置され、その付近に近寄るのは不法投棄に来た業者か、俺たちみたいな馬鹿な若者だけだ。
 なんでも、最近そのお化け屋敷のほうから誰かの泣くような声が聞こえるだというのだ。
「わざわざそんなところまで肝試しするためだけに行くのか?俺はかんべんだ。虫がいっぱいいそうだし。」
 虫嫌いの俺にとって森の中は草原の次に立ち入りたくない場所だ。
「虫、こわいのか?ふぅ〜〜〜〜ん。」
 友人が侮る様な眼で俺を見ている。馬鹿にしやがって。
「わかった!俺がチキンじゃないってことを思い知らせてやるよ!」
 友人と夜に会う約束をしてわかれた。
 
 家を抜け出すのは存外に簡単だった。
「ちょっと夜食買ってくる。」
「気をつけてね。あんまり無駄遣いするんじゃないよ?」
 注意すべきはそこじゃないと思うが、ともかく寛大な親だ。
 時計はすでに十時を回っている。こんな時間にうろついていたら間違いなく警察の方々に呼び止められ、無駄に心臓が痛くなる思いをするだろう。
 自転車をこぐ足も少しばかり緊張する。
 だがしかし、俺の予想と反して、お化け屋敷に至る道程にヒトは一人もいなかった。お化け屋敷に至る道の途中で友人が手を振っている。
「お、ちゃんと来たな?関心関心。」
「見くびるなよ?……それで、忍び込むのはいいんだが、忍び込んで何をするって言うんだ?」
 友人はフードの下の顔をにやりと歪ませると、話始めた。
「どうも聞いた話だと、あの屋敷には男が一人で住んでいたんだ。一日中屋敷の中で独り言を言っては笑って、叫んで……それがいつからか、男の声がしなくなり、誰かの泣く声と……。」
 友人が急に黙った。
「泣く声と何がしたっていうんだ?」
『ここからだしてぇ!!』
 あまりの迫力に俺は尻もちをついた。
「そこで、俺たちがその真相を暴こうってわけだ!……なんで尻もち付いているんだお前?」
「……ったく。あくまでも噂話なんだろ?ただの風の音とかそんなんじゃないのか?」
「ま、百聞は一見にしかずだ!行こうぜ、夜が明けちまう。」
 
ここでSPが切れたのでそのうち続き書きます。
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