風
 
目の前でおびえているヒトはおびえながら何かの紙を差し出している。
「これで助けてくれ!もっとと言うならもっと持ってこさせる!だから命だけは…助けてくれ!」
紙なんかもらっても食べられない。でもこのヒトを殺せばオトウサンがご飯をくれるし、ワタシに優しくしてくれる。
「死んで?」
 ワタシはオトウサンに貰った鉄定規を目の前のヒトに突き刺した。ヒトは口から血を吐きだして苦しそうにしている。死ななかった…もう一回。
「ぐわぁぁ!!」
 二回突き刺したらヒトは動かなくなった。血がいっぱい出ている。苦しい?ワタシにはよくわからない。
「よくやった、風。家に帰ってご飯にしよう。」
 オトウサンが迎えにきて、ヒトの死体をトランクに積むとワタシの頭を撫でてくれた。
「中年男性のパーツが無くなってね。…風には関係ないか?」
 オトウサンはカガクシャらしい。ヒトのパーツを集めて新しい命を作れないかどうかの研究をしている。ワタシはその中でも完成品というやつらしい。十代の少女から作られたとか…?ワタシにはよくわからない。
 
 家について、オトウサンはワタシにご飯をくれた。毎日の楽しみはご飯とオトウサンに優しくしてもらうこと。
「今日もよくやってくれたね、風。体の具合はどうだい?」
「大丈夫。どこも悪くないよ。」
「ならいいんだ。私にとってお前は、何よりも大切な一人娘だからね。」
 ワタシの頭をワシワシと撫でてくれた後オトウサンは笑顔で私を抱きしめた。
「ところで学校はどうだい?」
 学校…ヒトがいっぱいいる場所。オトウサンと材料以外のヒトがいっぱいいる場所。笑ったりはしゃいだり、おしゃべりをしたり。
「よくわからない。」
「そうか…徐々に慣れればいいさ。風には普通の女の子として幸せになってほしいんだ。」
 幸せ?オトウサンに優しくしてもらうこと?ご飯を食べること?よくわからない。
「そうだね。風はまだ生まれて半年しか経ってないもんな。」
 
 半年前、ワタシは生まれた。オトウサンの研究室の片隅でワタシは目を覚ました。初めて見たのは自分の手と足。その次は驚いてこっちを見ているオトウサン。
「なんてことだ!まさか偶然にもこんなことが!……いずれにしてもすごいことだ!私の研究はとうとうここまで来たのか!」
「あ…う…。」
 ワタシはオトウサンを呼ぼうとしたが、声が出なかった。
「私がわかるのか?お前を作ったのは私だよ。」
「オ…トウ…サン。オトウサン。」
「この私を父と呼んでくれるのか?嬉しい限りだ!!」
ワタシは外見上普通の十代の少女に見えるらしい。ちょっと顔色が悪いのと白すぎる髪が気になるとオトウサンは言っていた。ただ、身体能力は高いらしく、普通の人間では無いらしい。
 オトウサンはワタシにいろいろな服を着させてくれた。ワタシはオトウサンが着させてくれる服が好きだった。しばらくは二人で楽しく過ごしていた。だけど、オトウサンは一人で研究室にこもることが多くなった。
 オトウサンは朝早くから夜遅くまで研究室にこもってぶつぶつ言っている。出てくるとワタシを見て大きなため息をつく。たまに殴ったりしてくる。けど、ワタシはオトウサンが好きだから殴られてもいたくなかった。腕がとれちゃった時はさすがにオトウサンも驚いていた。
 だから、オトウサンが研究室にいる昼間は学校に通うことになった。ワタシの頭は高校一年生程度の頭脳は持っているらしかった。
 その時、名前が必要になったからオトウサンはワタシに「風」という名前を付けてくれた。意味はよくわからない。
それから半年。ワタシはオトウサンの研究のお手伝いをしている。もともとはオトウサンが一人でやっていたらしいけど、ワタシがやったほうが効率がいいと言われたので毎日ご飯の前にヒトを殺す。うまく形を残せるとオトウサンは褒めてくれるし、ご飯もくれる。
 もし殺しそこなったり、グチャグチャになったりすると、オトウサンはワタシを殴ったり蹴ったりした。悪いのはワタシだからしょうがないけど、その後でオトウサンは泣いて謝った。
「すまない…許してくれ風。ついカッとなって…。」
「うぅん。悪いのはワタシだからオトウサンは泣かないで?」
 そのあとはオトウサンと二人でご飯にした。
 
 ちょっと前に写真屋さんに行ってオトウサンと二人で写真を撮ってもらった。オトウサンはスーツを着て、ワタシは高校の制服を着て二人で並んで撮った。
「かわいい娘さんですね。」
 写真を撮ってくれたヒトがオトウサンにそう言った。かわいいの意味はよくわからない。
「よく私の手伝いをしてくれる自慢の娘ですよ。」
 オトウサンは笑顔でそのヒトと話していた。
 その時の写真はワタシの部屋の写真立てに飾ってある。同じ写真をオトウサンは首飾りにしている。
オトウサンはご飯が終わると研究室にこもった。ワタシは本を読んで夜を過ごす。オトウサンが研究室から出てきたらワタシはオトウサンにおやすみを言って寝る。そんな毎日を過ごしている。
 本を読むのは楽しい。いろいろなことがたくさん書いてある。ワタシの名前の意味も本に書いてあった。
 一冊黒い本が本棚に置いてあって、読もうとしたらオトウサンに怒られた。その時は足が折れちゃったから、二度と黒い本には触らないことにした。
 
 オトウサンが一日だけ家を空けることになった。初めてのお留守番だ。
「じゃあ、おとなしくしているんだよ?ご飯は戸棚に入れておいたからお腹すいたら食べなさい。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
「……ああ。」
 オトウサンがいない家でワタシは一人で本を読んでいた。オトウサンが読むなと言った黒い本が気になった。
 黒い本を開くとワタシの写真が貼ってあった。あの時写真屋さんで撮った写真だ。ページをめくるとオトウサンの字が書いてあった。
「まさか本当に動くとは思っていなかった。しかし、これは完成と呼べるのか?命を何個も消費して出来たのは少々頑丈なモノが一体だけ。一対一でなくては何の意味があるのだ。とりあえず完成品としては上々だ、名前は…そうだな『風』にしよう。私の業が生み出した存在。いとしい娘。」
 日記のようだった。書いてある内容はよくわからない。
「風はかなり頑丈のようだ。四肢が欠損したくらいでは痛みを感じないらしい。すぐに縫合すれば元通りに動く。だがそんな痛々しい姿は私も見たくない……が、研究に行き詰ったときについ手を上げてしまう。こんな私を父と呼んで慕ってくれる娘…許してくれ、お前を生み出してしまった私を。」
 ページの端のほうのインクが滲んでいた。オトウサンはこれを書きながら泣いていたんだろう。なんで悲しいのかワタシにはわからない。
「今日は写真を撮りに行った。風との思い出を何か残しておきたかったというのもあるが、風がかわいいというのもある。これが世に言う親バカというやつか?はは…外の世界と繋がりを絶ってこんな感情を抱けるとは思って無かったな。風…いつまでもそのままでいてくれ。」
 オトウサンは本当に一人ぼっちだったんだろうか?あんなに優しいオトウサンがなんで一人ぼっちだったのか、よくわからない。
「今日は、風に私の仕事を手伝ってもらった。身体能力は人以上だからな。鉄定規で人を殺せるのだから、凄いの一言しかない。それにしても最近、風の表情が豊かになってきている気がする。学校ではうまくやっているのだろうか?基本的にあの子は引っ込み思案だからな。笑顔を浮かべながら行ってきますと言って、家を出ていく風に私は何とも言えない感情を覚える。親心か…」
 オトウサンはワタシを心配してくれている。嬉しい。
「なんということだ。私の研究が警察にばれたみたいだ…。私が捕まるのも時間の問題のようだ。どうしたものか…時間はもうない。この本を読んでいることにかける。私はもうそばにいないだろう…多分二度と会えないだろう。間もなく警察が家を訪れるだろう。お前は私が誘拐した少女ということで警察に任せる。私は逃げるが忘れないでくれ、私はお前を何よりも大切に思っていた。お前は私の自慢の娘だよ。寂しくなったら写真を見てくれ。私と風が写っているだろう?二人とも笑顔のはずだ。もしまた会うことがあったら、その時はまた一緒に暮らそう。        いとしい娘、風へ。」
 ドアを叩く音がする。警察の人が来たのだろうか?ワタシは黒い本を学校の鞄に入れると裏口から外に出た。目から涙が落ちた。オトウサンに会いたかった。
 風が冷たくワタシの横を通り過ぎて行った。
 
fin
 
≪管理人の走り書き≫
 なんだか書きたくて書いた一品。後悔はしていません。
オトウサンと風の親子愛の話ですね。愛は愛です。
風はオトウサンに対して恋に近い感情を抱いてたり…そうでもなかったり。
言わなくてもわかると思いますが、風はMっ気があるみたいです。
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