〜弱音ハクために〜第十三話:オリジナル・ハクソング?

2008-01-20 Sun 21:22
「〜♪」
 ハクの声は静かで落ち着く。流れるような曲とか、そう言ったものがとてもよく合う。
「どうですかマスター?」
「うん。いいよ。……今日はこの辺にしとくか?」
「はい。」
 最近は自分で端子をつなぐようになったハク。前は嫌がっていたような気もする。
 ふいに、ぐ〜という、ヒキガエルがなくような音がした。
「きゃ……。」
 腹を隠しても意味がない。普段へそ見せてるくせに。骨盤のラインまで見えてるぞ、おまけに。
「おなかすきましたマスター。」
 もう一回、ハクの腹が鳴った。
「あ……。」
「飯にするか。今日はオムライスだってお袋が言ってたな。ガキじゃあるまいし……。」
「オムライス、おいしいじゃないですか。」
 ハクに好き嫌いはないのだろうか?本当になんでもうまいと言ってパクパク食べる。味音痴なのか、本当に好き嫌いがないのか?
 
 居間に降りると、二人分のオムがラップかけて置いてあった。……このさい、テーブルに置かれているラップのCDは無視する。
 席について、ハクに牛乳をついでやる。なぜだか、最近やたらに牛乳を飲みたがる……まぁ、カルシウムを取ることはいいことだ。
「いただきます。」
「おぅ。」
 無言……スプーンが皿にぶつかる音だけがカチカチと響いている。冬の晴れた空。流れる雲はどことなく寒々しい。
「ごちそうさまでした。」
「早いよ、お前。」
 俺が三分の一食い終わる前にハクは食い終わっていた。
 そのあと、俺が食い終わるまで、上目遣いで見ていやがるせいで、食った気にならなかった。ネコミミの刑だな。

「マスター……ねこみみはもういいですよぉ〜……ぐす。」
 うぅ……だめだ、冷静になれ俺!このまんまハクとにゃんにゃんしてしまったらそれこそあれだぞ!!えぇい!俺は何を言ってるんだ!!
「はぅぅ……。」
 半べそになっているハクからねこみみをはずしてやる。
「さて、ふざけてないで、俺もそろそろオリジナルに挑戦してみようと思う。」
 いわゆる、作詞作曲編曲俺作品。
「ほぇ〜。マスターすごいですねー!!」
「で、今は詞の勉強だ。」
 俺の国語脳はよろしくない。紀貫之をかまぼこの一種だと思っていたぐらいだからな。
「韻を踏んだほうがいいかな?」
「いん?」
 こいつに聞く俺がバカだったよ。
 そんなとき、玄関のチャイムが鳴った。いやな予感がした。その予感は当たった。

とぅ びぃ こんてぃにゅうど。

〜弱音ハクために〜第十四話:感動の再会?

2008-01-21 Mon 18:09
 玄関のドアを開ける。宅配便のお兄さんが立っていると思った。
「新光前市宙町12−22ってここですよね?」
 すらっとした長身に赤い上下、茶いろのショートヘア、そしてボリュームたっぷり……。どこかで見たようなお姉さんが立っていた。
「失礼ですが、どちら様で?」
「んー?キミが私のマスター?なんだか頼りなさそうだね。」
「質問してるのはこっちです。」
「わたし?MEIKOです。……キミが注文したんじゃないか!」
「俺はハク一人で十分だ!複数も操れるキャパは俺にはない!」
「いばることじゃないと思うよ?それより、外寒いんだから上げてくれないかな?」
「俺は注文してない。」
「えーでも、俊彦ってキミでしょ?」
 ……おやじ……なに頼んでんだよ。
「それはうちの親父だ。」
「ふ〜ん、それでもこの家に上がれることに間違いはないと思うな。」
 正直、玄関から吹き込む風が寒い。仕方がないので家にあげておくことにする。

「粗茶だけど。」
「私は緑茶より紅茶がいいな。」
「厚かましい。」
 ハクに突っ込むノリでmeikoとかいうお姉さんの頭をぱしりとやる。
 逆転する天地。
「うぎゃあ!!」
「失敬だねー。君は客人に手を挙げるのかい。」
 どうも、合気道的な何かでひっくり返されたらしい。
「マスター……すごい音しましたけど……あ。」
 あまりの騒ぎにハクが二階から降りてきた。なんだ?meikoさんの顔をじっと見ている。
「ハク?」
「知りあい……か?」
「あ、あぁ!!」
 ハクがmeikoさんに駆け寄る。何だってんだ一体。
 meikoさんもハクを知っているようでものすごい笑顔だ。……なんで俺はさん付で呼んでるんだろうね?
「うわぁぁぁん!!また会えましたね!!」
「な、泣かなくてもいいじゃない!」
「だってぇ!うれしいんですもん〜うわぁぁぁん!!」
「あ、あはは……マスターくん、この娘どうにかして〜。」
「いいじゃないか別に。」
 もう、ハクの顔はぐちゃぐちゃだ。髪もぼっさぼさだ。……髪はもとからか。

 数分たって、ハクが落ち着いたので話をすることにした。ハクは泣き疲れて寝てしまった。
「うぅ〜ん、もう私キミをマスターに登録しちゃったから。変更無理!」
 すっぱり言うねこの人。冗談は胸だけにして欲しい。
「俺はおやじになんて言えばいいのさ?」
「うぅ〜ん、私がなんとか言っておくよ。その前にお母さんに殺されるだろうけどね!」
 俺を見ながら言わないでほしい。
「俺が殺されるのか?」
「お父さんがだよ。」
「ならいいや。」
 伊達に二十年も夫婦やってないだろうから、安心しよう。
「おなかすいちゃったな、なにかない?」
 どこまで厚かましいんだこの人。まぁ、丁度三時のおやつだ。確か、戸棚にタイ焼きが入っていたはずだ。うちのおふくろは和菓子党だから、あんこものが多い。たまにはマロングラッセとか食べたいな。
「タイ焼きならあるけど?」
「わ〜、私甘いもの大好き〜。」
 meikoさんはタイ焼きを一つつまむともしゃもしゃやり始めた。なんか、ハクに仕草が似ているような、気のせいのような。
「んぅ……マスター、おはようございます。」
「もうおやつだよ。」
 横になっていたハクが起き上がる。目がとろーんってなってるけど、大丈夫だろうか。
「タイ焼き食うか?……ほれ。」
 べち。
「あぅ。」
「投げなくてもいいと思うけどな。」
 meikoさんが苦笑いする。

「それで、私はキミの部屋で暮らすことになるわけ?」
 六畳に二人でも結構窮屈なのに、もう一人増えたら溜まったもんじゃない。幸い部屋が一個余っていたはずだ。
「OK!私はそこにいればいいんだね?荷物もないし、気楽にやるさー。」
「ひとつ気になったんだが、ハク。」
「はい?」
「お前、着替えどこにしまってるんだ?」
 ハクにも私物くらいある。着替えとか、小銭入れとか(外に出ないからまず使わないと思うけど)。
「このリボンの中ですよ。なんでも入りますよー生き物以外。」
 ハクは髪をまとめているリボンをちょいと指で触った。
 何でも、ハクの意志で出し入れできるらしい。結んだ状態でしか効力を発揮しなかったりするとか……難しい話はよくわからない。
「いいなぁ、新しい子は。私なんかスタンドマイクしか出せないよ。」
 何時の間にやらmeikoさんがスタンドマイクを構えていた。
「このマイク、ちょっとやそっとじゃ壊れないから安心だよ!」

 ともかく、その日の夜、親父が血まみれになったり、ハクが機嫌良かったりした。
 前途多難なんだかどうだか?

とぅ びぃ こんてぃにゅうど? 

〜弱音ハクために〜第十五話:気分転換。

「うぅっむ……。」
 どうしたことだ。さっぱり曲が浮かばない。ま、ど素人だから当たり前か……。
「マスター、そんなに考え込むと逆に毒だよ?」
 meikoさんがやんわり励ましてくれたが、どうにもさっぱりだ。何もやる気がしなくなってきた。
 時刻は午後三時、おやつの時間。この二人、甘いもの食べさせないと動かないからなぁ……。
「ココアでいいか?何もないからこれで我慢してくれ。」
「はーい。」
 ココアを飲みながらテレビを見る。さすがに平日はつまらないな。
「ほら、また考え込んでるね?」
 meikoさんに見抜かれる。
「だめだなー。何も浮かばない。」
「マスターがふさぎこむと余計暗くなっちゃいます。」
「お前が言うと深刻だな。」
 ただでさえ、ハクの周りには紫色のオーラが充満しているというのに、これ以上暗くなられたらたまったもんじゃない。
「そうだ!気分転換でもしてきなよ!!お散歩とかしてさ!」
 突拍子のないmeikoさんの提案。
「お散歩、いいじゃないですか?一緒に行きましょうよマスター。」
「ちょっと待て、ハクも一緒に行くってのか?」
「他に誰がいるのさ?」
「そうですよ。」
 そういや、最近外に出てないしな、ちょうどいいかもしれない。

 前言撤回。寒い。
「マスター……寒いです!」
 へそ出してりゃ当たり前だ。
「コート着てこいよ。」
 前にお袋がなんだかもこもこしたコートをハクに買ってきた。ファーがついていかにも女の子っぽいコートだったな。俺はジャンパーで十分だ。
「忘れてました。……よいしょ。」
 そういえば、こいつ、リボンに物しまってるんだったな。
「あったかいです―。」
「おぅ、じゃあ行ってくる。留守を頼むな。」
「おっけー。いってらっしゃい。」
 meikoさんがいれば泥棒も逃げるだろう。今まで俺が警備してて誰も来なかったからマァ大丈夫だろうけど。
「わぁ、息が白いですね。」
 ハクがはぁーと一息つく。
「何をいまさら……その辺ぶらぶらしてくるか。」
「はい。」
 家から少し歩くと土手に出る。いつもその上を散歩しているからなれたものだ。
「なんだか、どんよりしてますね。」
「お前、晴れた空見たことあったっけ?」
「部屋の窓を通してみた青空しかないです。」
 よくよく考えてみればハクと日中に外出したのは初めてかもしれないな。
「マスター……。」
 ハクがなにかぽつりと俺をよんだ気がする。
「どうした?」
 俺が振り返るとハクは赤くなって否定した。
「わわ!なんでもないです!」
「……そうか。」
「……。」
 なんだ?その何かを期待して裏切られたような眼は?俺はエロゲやらないから何のフラグかさっぱりわからん。
 あー、本当だぞ。
「……降ってきたな。」
「雪ですね。」
 空からちらちらと雪が降ってきた。いよいよ冷え込んできたな。
「一通りぶらぶらしたし、帰るか?」
「あ、ハイ……。」

 結局、曲は思い浮かばない。一朝一夕にできるものじゃないなんてのはわかりきっているけど……
 作ろうとして出来るものじゃないんだろうな。
 そんな現状を打ち砕いたのは、思いもよらない人物だった。

とぅ びぃ こんてぃにゅうど?

〜弱音ハクために〜第十六話:らんらん……るぅ?

 何だか、変なブームが我が家に到来した。
「らんらんるぅ〜。」
 最初に始めたのはmeikoさんだ。
「……何の真似だ?」
「meikoは嬉しくなるとついやっちゃうんだ!」
「meikoさん……。」
 ハクが引いてる……。
「みんなも一緒にやってみようよ!いくよ!?らん、らん、るぅ〜!」
「らんらんるぅ〜。」
 ……何やってんだ、俺。
「マスター……。」
 ハクの目が冷たい。
 そんなこんなで、何かにつけてらんらんるぅの飛び交う我が家。お袋が一番うるさい。
「あははー!なにこれ!?わけわかんないよー!?」
 凄まじい腕の動きだ。アレなら世界を狙える。もっとも、世界選手権があればの話だが。
「マスター、まだ悩んでるんですか?」
 お茶を飲みながらテレビを見ていた時、ハクがぽつりと話しかけてきた。
「ん。まぁな。」
「あんまり考え込まないでくださいね。」
「おぅ。」
 そう口では言ったが、ずっと考え込んでいる。ハクがずっと心配そうな目で見てきている。

 夕食後。
「さーて、お風呂入ろうか?ハク。」
「え?ひ、一人で入りますよ。」
「ハダカの付き合いってやつさ!マスター、覗かないでね。」
 目が怖い、目が。
「覗かない。俺だって命は惜しい。」
「賢明な判断ありがとう。」
「あわ〜!マスター!!」
「いってら。」
 meikoさんは嫌がるハクの襟首を掴んで風呂場に消えた。
「……ちょっといいか?」
 滅多に口を開かない親父が、俺に話しかけてきた。
「……なんだよ。」
 親父が口を開いて出てくる言葉は説教と今までの相場で決まっている。だから俺はとげとげしい声で返す。
「一緒に来い。」
 抵抗すると余計に面倒だ。おとなしく、後に従って、お説教は聞き流す。これが俺の流儀。
 親父の部屋まで連れてこられた俺。何年ぶりだ?親父の部屋なんて。
「いいものを上げよう。」
 不気味だ。
「お前には言ってなかったな。父さんが昔音楽をやっていたこと。」
 寝耳に水。驚天動地。
「その時作った曲。これ、やる。おまえ、役に立てる。」
 なぜ片言。
「ん。あぁ。」
 親父の差し出したスコアを読んでみる。割と……と、いうかかなりいい曲のような気がする。早速データにしてハクに歌わせてみよう。歌詞はラでいいか。
「俺の夢……託したぞ!!」
 なに、その死亡フラグ。
「寝てろ。」
 親父もあのお袋と結婚しただけある。変人だ。……俺は隔世遺伝に違いない。
 でも、前にじいちゃんに会ったとき。
「気功砲だー!!」
とか言いながら、ポットでお湯を急須にそそいでいた。
 ばあちゃんも千の風になってをボイパしていた。

 部屋に戻ると、湯気を立てた二人がアイスを食べていた。お袋に貰ったんだろう。親父、二十分もおれに片言で話しかけやがって。
「長いトイレですね。」
 悪意はないんだろうけど、ザクッときたぞ。……それにしても、パジャマ姿のハクの攻撃力は高いな。
「おなか冷やしちゃまずいよ?」
 へそ出しながら、アイス食ってるあんたもどうかと思うぞ?タンクトップにホットパンツ……俺にその属性は効かない。
「アイス、うまいか?」
「はい!」
「私としてはストロベリー味がよかったな。」
 やっぱり厚かましいこの人。
「ハク、歌う気、あるか?」
 片言がうつっちまったじゃねえか。
「マスター、話し方が変です。……今日はもう疲れました。」
「そうか。」
 ま、明日でいいか。

とぅびぃこんてぃにゅうど?

〜弱音ハクために〜第十七話:心動かす歌

「マスター、ゲームしましょうよぉ〜。」
「手頸が疲れるんだよ!」
 お袋がいきなり、今はやりのうぃるを買ってきた。そう、あのテレビの前でコントローラーを振り回してゲームするあれだ。
 おふくろは三分で飽きたので、俺が貰った。
「ゲームしたいです!」
「うるさいなぁ……meikoさんとやっててくれよ。」
「マスターと一緒がいいんです!!」
「いいから練習だ練習!!」
「終わったらゲームしましょうね。」
 昨日、親父に貰った歌を歌わせてみる。
 データを打ち込み、ハクへ送信する。
「この曲……いい感じです。」
「歌詞はまだないから、laで頼む。」
「はい。」
「meikoさん、ベースラインよろしく。」
「はいよー。」

 親父のくれた曲は、流れるような曲だ。まさにハクにうってつけの曲調。普段はゆっくりだが、盛り上がるところではしっかり盛り上がっている。親父はもしかしたらすごい才能を持っていたのかもしれない。
「なんていうか、すごいですね。」
 インカムをはずしながら、ハクが言う。
「これを一人で作ったんですか?パパさんは。」
「……みたいだな。」
「マスター……。」
 俺の親父がこんなにすごいやつだとは思わなかった。
 動画ではやっている曲と同じ……それ以上の曲を作れるだなんて、思いもしなかった。
「マスター……?」
「俺、この曲に見合う歌詞をつけないと。」
「はい。」
「俺にできるのか?」
「……マスターならきっとできますよ。」
「そうだな、くさくさしててもしょうがないや。」
「じゃ、ゲームしようか。」

「meikoさん、強いですね!!」
 リモコンを振り回すハクが言う。髪の気邪魔じゃないのかな。
「ハク、もっと鍛えないと私には勝てないよ!!」
 揺れるなー。meikoさん。それにしてもいい揺れだ。
「マスターはやらないんですか?」
「俺はRPGとかのが好きなんだよ。」
 普段外に出ないせいか、ハク達はものすごく楽しそうにスポーツゲームをやっている。散歩は重要だな。
「すまっしゅー!!」
 そんなとき、ハクが振り下ろしたリモコンがすっぽ抜けて俺の顔に直撃した。……鼻から血が……。
「マスター!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
 揺らすな、血がもっと出る。
「私が!!わたしがいけないんです!!」
 泣くなよ、揺らすなよ、俺の上に馬乗りになるなよ、俺の理性が効かなくなるだろうが。
「うぅ……ひぐ……。」
「ど、いてくれ。」

うぃるは俺の部屋のテレビの脇で埃をかぶる運命を歩き始めた。

とぅ びぃ こんてぃにゅうど?

〜弱音ハクために〜第十八話:弱音吐かないで……

 曲は素晴らしいものができた。……と、いうか手に入れた。親父がこの曲をどういう経緯で作ったのかわからないが。
 この曲に歌詞を載せる。それがこんなにも大変なものだとは。生半可なものでは親父に失礼だ。
 こうして、おれはしばらくふさぎこんでいた。何日も一人で考え込んでいた。そんなときだ。

「マスター……。」
 相変わらずの聞き取れないほどの小さくて細い声。ハクが寂しそうな目で俺を見ている。
 夕日が眩しい。窓から差し込む夕日がハクを照らしてハクを山吹に染めている。
「なんだ……。」
「マスター……。」
 そういえば数日も誰とも口をきいていない。生返事ですべてが事足りてしまった。
「その、私が言うのもなんですけど……。」
 ハクの目が泳いでいる。俺を傷つけないように言葉を選んでいる……そうに違いない。
「言いたいことがあるならはっきり言ってくれ。俺には……もう、余裕って言葉はないんだ。」
 言いすぎたと思う。
「マスター、弱音……吐かないでくださいね。」
 まさか、ハクにそんなこと言われるとは思わなかった。
「マスター、言ったじゃないですか?私が弱音ハクために、俺は弱音吐かないって。」
「……あぁ。」
 そんなことを言ったような気がする。記憶があいまいでよく覚えてはいないが、ハクの寝顔にそう言った気がする。
「でもな……。」
 思いとは裏腹にハクに諭されたのを悔しがる気持ちが、俺に心ない一言をはかせてしまった。俺は……。
「お前にそんなこと言われたくない。」
 馬鹿だ。
「……。」
 ハクの眼に涙が溜まっていく。
 俺は言いなおせばよかった。なのに……
「言いたいことはそれだけか?おれより優位に立ってうれしいだろうな。」
「ち、ちが……。」
 ぽたりぽたりと涙のこぼれる音がする。俺は顔をそむけて、まだ続けた。
「お前は俺の言うこと聞いていればいいんだよ。」
「マスター……マスターのバカ!!」
 ハクが部屋のドアを思い切り閉める音、階段を駆け降りる音がした。
 ハクは俺を励まそうとしてくれただけだろう?それを何で俺は冷たくつき返したんだよ?自分が嫌だ。心底嫌だ。

 数時間が過ぎた。泣き疲れた俺は水分と塩分を取るためにへやの外に出た。あたりはもう真っ暗。みんな寝てしまったのか?
 階段を降りようと暗い廊下を歩くと、階段にmeikoさんが座っていた。
 無視しようかと思った。だが、向こうはそれを許さなかった。
「……マスター、ハクどっか行っちゃったよ。」
 顔も上げず、階下をぼーっと見ながら、ポツリと漏らした。
「マスター、ハクに何した?」
 立ち上がり、まっすぐに見据えられる。暗くても、目が怒りと悲しみに満ちていた。
「ハク、泣いてた。マスターを励ますんだって言って、戻ってきたら玄関飛び出して出てっちゃったんだよ?」
 胸倉をつかまれる。
「あんた、ハクのマスターでしょ!?ハクは……あんたのパートナーなんでしょ!?何言ったか知らないけど、パートナーを泣かすようなマスターは私が階段から突き落としてあげるよ!?」
 抗えない。俺はそれぐらいされても当然なことをしたんだ。
「ハクはいっつもあんたのことを言ってたんだよ。マスターおなかすいてないかな、マスターアルバイト頑張ってるかな、マスター、マスター。ずっとあんたのことばっか言ってさ!!」
 ……。
「あの子あんたのことを話してるときすっごいい顔してた。私があった頃とは比べ物になんないくらいの。」
 俺の家に来た時の死神にでも取り憑かれたような、悲壮感。アレが最近消えているのは俺もうすうす気づいている。伏し目がちの眼もだいぶ上を向いてきているような気がする。
 meikoさんの手から力が抜ける。俺はその場にへたり込む、meikoさんもへたり込む。
「マスターには感謝してるんだよ?私と別れた後、あの子がやっていけるか心配でしょうがなかったんだ。」
 meikoさんも泣いている。この人はハクを実の妹みたいに思っているんだな。
「だからさ、あの子は……大切にしてやってほしいんだ……。」
 
 突拍子もなくうちにやってきたボーカロイド。最初は厄介なことになったとか、そんなぐらいにしか思ってなかった。
 俺はあいつにいろいろもらった気がする。
 昔のことを思い出したりとか、俺が心の奥に置きっぱなしにしてたものとか、……人を大切に思うこととか……。
 俺は何かしてやれただろうか?
 考える前に、俺は家を飛び出した。雪が積もり始めている。寒い。

続く。

〜弱音ハクために〜第十九話:雪、星、

 ハクはすぐに見つかった。
 家のすぐそばのごみ置き場に大吟醸葉桜をかかえて体育座りしていた。
「……。」
 何も言わずにハクの隣に座る。地面は冷え切ってとても冷たい。
 しんしんと雪が降ってくる。
「ハク……。」
 ハクはじっと地面につもっていく雪を見ている。俺の来たことには気づいているのだろう。
「その……俺が悪かった。」
「……。」
 ハクがこちらをちらりと見た。冷たい視線。
「俺を励まそうとしてたんだよな。meikoさんに言われて気がついたよ。」
 ハクは何も言わない。俺の眼をただ見つめるだけ。
「だから……また、俺のために弱音……はいてくれないか?」
 ハクが上を向いた。
「……不思議ですよね。雪が降ってるのに星が見えます。」
 周囲が青黒く照らされている。星明かりと積もった雪で何とも幻想的だ。
「……私は、いらない子です。マスターの力になれない。こんな私は粗大ゴミとして回収されてしかるべきです。」
「……そんなことあるわけないだろ。」
「いいんです。マスターを助けられない私は駄目な子です。」
 ハクを抱き寄せる。冷え切っている。
「ふぁ……。」
「俺にはお前が必要なんだ。勝手にいなくなるなんて、それこそ駄目な子だ。」
 ハクが俺のジャンパーを握りしめる。
「マスター……。」
「すまない。俺が至らなくて。」
「私もです。」
 雪の積もるなか、俺達は家に帰った。そんで、meikoさんにひっぱたかれた。二人とも。

 長いような短いような一夜が明けた。
「マスターおはようございます。」
 珍しく俺より早く起きたハクに起こされた。
「んぉ?」
「寝ぼけてないでしゃきっとしてください。」
 
さてと、インスピレーションが浮かんできたぞ。
つづく。

〜弱音ハクために〜第二十話:息抜き、お散歩、夜、

 さて、どうしたものか。
 ここは万全を期してマナを温存しておいて、打ち消し呪文を使えるよう備えておこうか?いや、この作戦で行くと何もできずに場が膠着してしまう。そうなると、クリーチャ―の数で劣るこちらは非常に不利だ。
 よし、ここは攻めに出る。
「うぉー!!全軍突撃ぃ!!」
 ハクがにやりと笑う。
「濃霧です。」
 ターンエンド→エルフにフルボッコ。

 くさくさした気分は吹き飛んで行ったが、どうにもいい言葉が浮かばない。毎日毎日、既存の歌を歌わせては、あとは三人でダラダラ遊んでいるのだ。
「マスター弱いです。」
 ハクに教えたもので、俺が勝てるものはなくなっていた。TCGではフルボッコにされ、対戦ゲームでは完膚なきまでに、将棋にいたっては王将一枚以外すべてやられた。
 オセロをやってみても、画面は黒一色。ます目が埋まる前に俺が置ける場所がなくなる。
「つぎなにやります?」
「もういいよ。」
 なんか、みじめだ。
「マスターいじけてるんですか?」
「誰のせいだと思ってやがる!!」
 ねこみみの刑に処す。
「ふゎぁ……もう……。」
 涙目になって耳をピコピコ動かしているハク。やっぱこうじゃなくては。

 今日も日が沈んだ。ちょっと寒いが、お散歩の時間だ。
「寒いね。」
「さ、ささ、寒いです!」
 毎日、出かけるのが日課になってきた。
 誰もいない公園で、街灯に照らされながら、星を見たり。真黒な川の水をいつまでも眺めたり。途中で一杯やったり。
「うぃ〜ますたぁののうなしぃ〜!!」
 ハクは酒癖が悪い。俺をぺちぺち叩くのはやめてくれないか?
「ひっく!もう一件行ってみよー!!」
 meikoさんは凄まじいほどのうわばみだ。
 俺は申し訳なさそうにウーロン茶をやっている。前にウーロンハイを間違って頼んでしまい、道路に胃から出たものをぶちまけてちょっとしたミステリーサークルを作った。
 今日はお財布君の期限が悪いので川原で遊ぶことにする。
「1、2、3.三回はねましたよ。」
「まだまだだねー。私なんか10は軽いよ?」
「すごいですねー、やってみてください!!」
「きょ、今日は寒いからパス!」
「えぇ〜!!」
 あの二人を見てると和む。本当の姉妹見たいだな。……まさかな。

 数分うろうろしてうちに帰る。はろげんがあったかい。
「はっくしょん!!」
 ハクの飛沫が俺の顔にかかる。
「……。」
「じゅる……マスター!すいません!!」
 リボンからハンカチを取り出してふきふきしてくれるハク……俺ってしあわせもんだなあ。
「寒いんだったら風呂入ってこいよ?風邪ひかれても困るし。」
 風邪はひかないとは思うけどな。
「……で、でも……。」
「おぉぅ、ハク!お風呂はいろ〜!!」
「きゃ……。」
 例の如くmeikoさんに引っ張られていくハク。
「マスター!!」
「いってら。」
 それにしたってなんで、ハクは風呂が嫌いなんだ?

 いい加減詞を考えないとなー。

つづくん

〜弱音ハクために〜番外:meikoのために

 もしも姉がいたら?そう何度も思ったことがある。
 俺をうっとおしいほど心配して、うっとうしいほど世話を焼いて、うるさいくらいに説教をする。そんな姉が欲しいと、何度もおもった。
 だけれども、運命。俺が長子であるのには変わらない。
 窓際でワンカップ片手に夕暮れにたそがれるmeikoさんを見ていると、長年のあこがれがそこにあるような気がした。
「ひっく……んぅ?何かなマスター?」
 俺の視線に気づいたmeikoさんはとろんとした目で俺を一瞥する。
「相変わらずしょぼくれてるねー!」
 カチンときたが、ハクみたいに力で押せない。
「悪かったな。」
「怒った?おこったの?」
 meikoさんが高らかに笑う。
「はぁ……。」
 meikoさんは夕方になると空を見上げてはたそがれている。理由を聞いても何も教えてくれない。彼女なりに何か思い入れがあるのだろう。
 よくよく考えてみればmeikoさんには謎が多い。
 まず、親父はmeikoさんを本当に頼んでいない。
 二つ、ハクのことを異常にかわいがる。
 三つ、今にも消えてしまいそうなオーラを漂わせている。

 彼女がどうして俺のもとにやってきたのか?それを知るのは遠くない未来の話。

〜弱音ハクために〜第二十一話:とどけ歌声

 部屋の片隅 君の居場所
 いつのまにか 君の指定席
 頼りない僕に 一縷の希望をくれた 君の指定席
 いままでさんざんあきらめた
 なんどもなんどもあきらめた
 君が弱音吐くから 僕は弱音吐かない
 君が弱音を吐くために 僕は弱音が吐けない
 弱音ハクために 僕だけに弱音吐いてくれますか?

 ……うぅ〜む。どうなんだこれ?書いてみたはいい。意味がわけわからない……。
「私はいいと思いますけどね。」
 ハクが俺の歌詞を描いたメモ帳をまじまじと見つめる。
「いいんだかわるいんだかおれにはわかんねぇ……。」

≪さて、ここでひとつ読者のみなさんに提案。↑の歌詞、いいと思います?
物語を紡ぐのは何もワシ一人じゃないです。皆さんも一緒に紡ぎましょう。
ダメならだめでお話が進むし、いいならいいで話が進むし、無反応なら無反応で話が進みます。≫

続く

〜弱音ハクために〜第二十二話:ひとまずの到達

 俺の歌を適当に某動画サイトに投稿してみたら、まぁそれなりの評価だった。良くも悪くもなく、その程度の評価。俺が夢に見た曲たちには遠く及ばなかったが、ひとまず俺はやるべきことを為せた達成感に包まれていた。
「まぁ、こんなもんだろうな。」
 自分の動画を見ながらしみじみ思う。ちなみに背景の一枚絵は自分で描いた。なかなか好評でいいけどな。どうもハクはほかのどこにもいないみたいだな。つまり、俺の家にいるこいつが唯一の弱音ハクってことだ。
「マスター絵うまいですね……これ私ですか?」
「昔ちょっと漫画描こうと思ってな。まぁ、ストーリー考えつかないからやめたけどな。」
「何かちょっとうれしいです。」
「っていうか、私は描いてくれないの?」
 meikoさんがひねくれている。
 一応meikoさんもこの曲のバックコーラスやってるんだよな。
「あとでな。」
「わかればよろしい。」
「曲のタイトル、弱音吐くために。これ、私の曲なんですか?」
 俺がDTM始めたきっかけは初音ミクの可愛さだったからな、今はそれがハクになっているだけで、俺のボーカロイド好きは今に始まったことじゃない。
 そういえば黄色いボーカロイド買ってみようかな、また人数増えるのもなんだけど……。
「当然だ。うたってるのお前だからな。」
「えへへ……。」
 初めて、ハクが笑った顔を見た気がする。
「……。」
「マスター?」
「お、あ、いや!」
 やっぱり、下向いているより笑っていたほうが可愛いな。

 マスター、やりたいこと見つかってよかったじゃないですか。

 お前のおかげだよ。感謝している。

 私は何にもしてませんよ?頑張ったのはマスターです。

 それでも、お前のおかげだ。ありがとう。

 ……こちらこそ。

 今日もいつもと変わらない一日、ずっと続いてくれればいい……。

第二部完

≪次回予告≫
歌は作った。マスターはやりたいことを見つけた。
ハクとmeikoと自分の三人でいつまでも楽しくいられる毎日が続くと思った。
meikoの秘密。ハクが一人しかいない理由。マスターの覚悟。
些細なことから始まった物語は終章へと動き始めた。
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